Close
スペシャルコンテンツ

映画『シン・ゴジラ』と東宝宣伝マンの矜持

公開前の情報の少なさと、公開後に世を席巻した圧倒的な熱量と拡散力。この夏、社会現象ともなった『シン・ゴジラ』の宣伝活動は、どんな発想で進められてきたのか?作品の類稀なる個性とヒットの宿命との狭間、その最前線で格闘した若きチームに話を聞いた。 ※このコンテンツは2016年に公開されたものです。

第1章:映画の宣伝とは?知ってもらうためのさまざまな手法

今回集まってもらったのは、宣伝プロデューサーと紙・電波のパブリシティ担当。まずはそれぞれの仕事の内容や役割分担を聞いた。

——まずは入社してからこれまでに担当してきた仕事を教えてください。

稲垣 入社してすぐ宣伝部パブリシティ室に配属になり、紙パブリシティを担当しました。途中で1年間九州支社の営業グループで仕事をした以外はずっと宣伝畑。支社宣伝、紙・電波パブリシティを経て現在は、宣伝プロデューサーの仕事をしています。

大竹 僕は入社して2年間、不動産経営部でショッピングモール『日比谷シャンテ』の運営に携わり、その後宣伝部で紙パブリシティを担当しています。

小宮 僕も大竹さんと同じ不動産経営部で仕事を経験して、2011年から電波パブリシティの担当になりました。

——学生の皆さんにとってはわかりづらいところだと思うのですが、そもそも宣伝プロデューサーとパブリシティの仕事とはどう違うんでしょうか?

稲垣 宣伝プロデューサーは宣伝用の予算をもらい、それを使って宣伝活動をしていきます。具体的には、もらった予算をイベントやTVCMなどの広告、宣材(ポスターやチラシなど、宣伝のためのグッズ)にどう割り振るかを考えるほか、それぞれの広告物・宣材物を制作したり、どの時期にどんなプロモーションを行うかを決めるなど、宣伝全体の流れを作っていきます。一方パブリシティはお金をかけずに取材などを通して映画の情報をメディアに露出させる仕事です。予算を持っているのが宣伝プロデューサーなので、まとめ役にはなりますが、両者の間に上下はありませんね。

大竹 紙パブリシティは、雑誌や新聞、スポーツ紙などの紙媒体の皆さんに映画の取材をしてもらい、それを記事にしてもらう仕事です。有料で誌面掲載する広告とは異なり、映画の宣伝ということで、出演している俳優さんに取材稼働してもらい、媒体さんには無料で誌面に映画の告知を入れてもらう。こちらとしては、ニュース性の高い俳優さんの取材や、映画の特集企画をブッキングすることで、無料で雑誌や新聞に掲載してもらうというわけです。こちらには最大限映画の宣伝をしたいという思惑があり、媒体側には自分たちにとってよい記事にしたいという思惑がある中で、双方納得のできるものを作るにはどうするか、という、自分たちなりの企画力が必要。媒体さんに映画の売り込みをし、企画を固めて取材が決まり、俳優さんに「映画の魅力を伝えるためにこういう話をしてください」とお願いする。ということは、自分自身も映画の「売り」をしっかり把握している必要があります。

小宮 電波パブリシティでは、同じようなことをテレビやラジオの番組を舞台に考えます。ちなみにCMはお金をかけてやることなので宣伝プロデューサーの仕事。僕らが考えるのは、いかにお金をかけずにバラエティ番組や情報番組で作品を取り上げてもらうかということです。俳優さんに番組に出て頂いたり、舞台挨拶などのイベントを情報番組に取り上げてもらうほか、たとえば「シン・ゴジラの知られざる世界」というように、何らかの切り口で作品を紹介する特集コーナーを作ってもらうことも。後で詳しくお話ししますが、とくに『シン・ゴジラ』の場合は出せる情報が非常に少なかったので、「こんな映像なら出せます」「こんな道筋を立てれば番組の企画になるのでは?」と番組の方にご提案して、最もいいタイミングでオンエアされるように準備を進めていきました。

稲垣 イベントを行うと翌朝のスポーツ新聞やテレビの情報番組で紹介されるので、僕たち宣伝プロデューサーとパブリシティとの連携も大切なんですよね。スポーツ新聞向けには、たとえば俳優さんにパネルを持ってもらうなど、紙面で映画の情報が伝わりやすい画づくりを大竹君と一緒に考え、テレビでは俳優さんの言葉が拾われるので、何を言ってもらうかを小宮君と一緒に考える、といったことを日々繰り返しています。

——情報番組にはスポーツ新聞の紙面を紹介するコーナーなどもあるけど、あれは大竹君、小宮君どちらの担当なの?

小宮 僕ですね。

大竹 その新聞への露出は僕が担当しているんですが、小宮君からは「どんな感じで出ますか?」ってプレッシャーが凄いんですよ(笑)。テレビでも効果的に露出するにはスポーツ新聞での取り上げられ方が問われますからね。

小宮 今はメディアがボーダレス化しています。新聞で出たことがウェブで取り上げられたり、ウェブの記事がテレビで話題になったりして拡散していく。お互いの連携は欠かせないんです。

——それぞれ違った大変さがあるということがよく分かりましたが、今まで手掛けた中で印象的だった作品を挙げるとしたら何ですか?

稲垣 何といっても入社して初めて宣伝を担当した作品、『バッテリー』ですね。僕も当時新入社員でしたが、主演の俳優さんにとっても映画デビュー作。新人はこなすべきメニューも多く、朝から晩まで取材に対応してもらうんですけど、最初は明らかに戸惑っていた彼が、どんどん面白いことを話せるようになっていくんです。そうやって一緒に全国をPRして回る経験を経て、俳優と宣伝マンの違いはあれど、一緒に作り、盛り上げる感じを強く味わうことができました。公開後に作品を観に行き、お客さんが拍手している姿を見て「本当にいい仕事だな」と思ったのをよく覚えています。

大竹 僕は初めて自分一人で紙パブリシティを担当した『星守る犬』です。その前にも先輩について学んでいましたが、自分一人でやるとなると勝手が全然違うんですよね。取材のブッキングなどの段取りも分からず、周りにサポートしてもらいながら何とか乗り切りましたが、毎日誰かに迷惑をかけては叱られていました。主演俳優さんや監督さんにも助けていただきましたね。すごい大御所にもかかわらず、嫌な顔一つせずに、本当に何でもやってくださって。「ありがたいな」と心から思いつつ、その分「ちゃんとやらなければ」とプレッシャーもひときわでした。

小宮 僕は2015年の『HERO』ですね。中学3年生のときにTVドラマの第1クールが始まり、大学生のときには映画館に観に行った作品に、まさか自分が携わることになるとは思っていなかったので、初めて撮影現場に行ったときは「ここが『HERO』の現場なんだ!」と本当に高揚しました。春から宣伝活動が本格化してそれから夏まで、ずっとこの作品のことだけを考えていましたね。

大竹 普段、僕らとしては取材やイベントを面白くしたい、ハプニングを起こしたいという思いがあるけど、俳優さんたちの所属事務所はそうさせたくないこともあります。でも『HERO』のような作品は、出演者の方がイベントや番組に出るだけでハプニングのようになって、一気に世間の反応が変わることもある。とくにテレビの場合はいい反応も悪い反応も大きく跳ね返ってくるから大変だろうなあと思いつつ、そういう経験ができる小宮君がうらやましくもありました。

稲垣 大変といえば、僕がパブリシティ時代に担当した中で一番大変だったのはハリウッド版『ゴジラ』。それまで担当したのはすべて製作委員会方式の作品で、ある程度「こうすれば良い」というノウハウもあり、委員会会議もわりと和やかに進むのですが、『ゴジラ』は東宝一社で手掛ける作品で、しかも当時は10年ぶりのゴジラ映画復活ということもあり、社内でも「絶対にヒットさせる」という意気込みが大きく、他の作品にはないプレッシャーがあったんです。宣伝のメニューを作っていく上でもすごく細かいところまで突っ込まれて逃げられない。それは『シン・ゴジラ』も同じでした。